水のコラム
春の訪れを告げる行事!東大寺のお水取りって何をするもの?【水道職人:公式】
奈良県には春の訪れを告げる行事に、東大寺の「お水取り」という行事があります。
正しい名称は「修二会(しゅにえ)」ですが、お水取りの名称の方が有名かもしれませんね。
今回は、東大寺の伝統行事である、お水取りについてご紹介します。
お水取りは不退の行法!
東大寺二月堂(とうだいじにがつどう)のお水取りとは、二月堂本尊の十一面観音菩薩に、2週間に渡って過ちを懺悔し、除災招福を祈る法要「十一面悔過法(じゅういちめんけかほう)」のことです。
13日の夜に本尊に備えるための「お香水(こうずい)」を汲み上げることから、お水取りとも呼ばれています。
お水取りの歴史は古く、天平勝宝(てんぴょうしょうほう)4年から始まり、「不退の行法」として、一度も途絶えることがなく現代でも続いています。
東大寺二月堂は、寛文(かんぶん)7年に火災に見舞われるという悲劇が起こりました。
この際には、東大寺の三月堂(さんがつどう)にて執り行われたのです。
また、太平洋戦争の戦中戦後には、堀池春峰(ほりいけしゅんぽう)氏が用土(ようど)担当を賜り、人員や食料、資材を調達し、法要を執り行いました。
戦争中には灯火管制(とうかかんせい)や空襲警報があり、法要を執り行うには非常に厳しい状況にありました。
しかし、堂の扉に目張りを施し、扉をしっかりと閉めて、法要を執り行ったのです。
戦中には「お松明」を使えなかったため、竹筒にろうそくを立てることで代用し、前を開けた黒い布で覆い、足元だけを照らしてお水取りに行きました。
お水取りは練行衆が行う
東大寺のお水取りは、「練行衆(れんぎょうしゅう)」と呼ばれる、11人の僧侶が執り行います。
練行衆にはそれぞれに役割があるでしょう。
上席にあたる「四職(ししき)」が中心となり、補佐や書記として「平衆(ひらしゅう)」がサポートします。
【練行衆の役職と役割】
- 和上(わじょう):練行衆に授戒(じゅかい)が行える
- 大導師:祈願を行う法要の責任者で、「導師さん」とも呼ばれる
- 咒師(しゅし):密教的手法を行える
- 堂司(どうつかさ):行事の進行と庶務を行う、「お司」とも呼ばれる
- 北座衆之一(きたざしゅのいち):平衆の主席
- 南座衆之一(なんざしゅのいち):平衆の自席
- 北座衆之二(きたざしゅのに)
- 南座衆之二(なんざしゅのに)
- 中灯(ちゅうどう):書記
- 権処世界(ごんしょせかい):補佐で、「権処さん」とも呼ばれる
- 処世界(しょせかい):平衆の末席で、法要の雑用を行う
四職は和上・大導師・咒師・堂司の4名で、他は平衆です。
なお、練行衆にはサポート役を務める三役もついており、行事を進行していきます。
本行の前には前行がある
お水取りの行事は2月から始まりますが、本行は3月1日からです。
お水取りでは本行に入る前に、「別火(べっか)」と呼ばれる前行があります。
別火では、練行衆が「戒壇院の庫裡(かいだんいんのくり)」で合宿生活をします。
この際、ライターやマッチなどの、世間一般的に使われている火は使えません。
火打石で起こした火だけを使って、生活しなければならないのです。
別火には2つあり、「試別火(ころべっか)」と「惣別火」を終えた後に、本行に入るのです。
本行の初日に授戒を行う
本行は、3月1日に行われる「授戒」から始まります。
3月1日の深夜1時に、和上が食堂にある、賓頭盧尊者(びんずるそんじゃ)に向かって自誓自戒(じせいじかい)を行います。
その後、練行衆に「八斎戒(はっさいかい)」を読み上げ、「よく保つや否や」と問いかけるでしょう。
八斎戒を拝聴した練行衆は合掌し、「よく保つ」と3回誓うのです。
授戒が終わると、開白上堂(かいはくじょうどう)の後に、練行衆により境内の清掃や飾り付けがなされます。
そして、2時15分頃に二月堂内の全ての明かりを消し、火打石を用いて「一徳火(いっとくび)」を起こすのです。
この一徳火が、常燈(じょうとう)の火種となります。
悔過法要がお水取りの中心行事
お水取りの中心行事は、期間中に日に6回行われる「悔過法要」です。
6回の法要にはそれぞれ名称がついており、唱言(となえごと)や所作もそれぞれに異なります。
【悔過法要の種類】
- 日中
- 日没
- 初夜
- 半夜
- 後夜(ごや)
- 晨朝(じんじょう)
なお、悔過法要は平衆が交代で導師を務め、導師の声に唱和して、唱句を全員で唱えるのです。
お松明はお水取りの象徴
東大寺が燃えているような光景を奈良県民以外の方も、テレビなどで見たことがあるのではないでしょうか?
お水取りでは「お松明」という、二月堂の舞台で火のついた松明を振り回す慣習があります。
お松明は本行の開催期間中は連日執り行われますが、12日には一回り大きな「籠松明(かごたいまつ)」が登場します。
籠松明はとても大きく、長さは8mあり、重さは70kg前後あると言われ、バランスを取るために根がついているのです。
また、通常は10本しか上堂しない松明が、12日のみ11本上堂します。
お松明の火の粉を浴びると健康になったり、幸せになれたりすると考えられており、火の粉を浴びたい方も少なくはありません。
なお、護符の代わりに燃えかすを持って帰る方もいらっしゃいます。
お松明の後はお水取り
12日のお松明の後には、「お水取り」が行われるのです。
お水取りは13日の午前1時30分頃から3時頃まで、参拝者の前で執り行われます。
お水取りでは咒師が先導し、5人の練行衆が南側の石段から降りて、閼伽井屋(あかいや)に向かいます。
この際、雅楽が鳴り響いているでしょう。
また、道中で興成神社(こうじょうじんじゃ)に立ち寄り参拝します。
閼伽井屋に到着すると、練行衆をサポートしている童子たちが扉の開閉を行い、咒師以外の練行衆は警備を担当します。
閼伽井屋では明かりを灯さずに、「お香水」と呼ばれるお水を汲みます。
汲み上げられたお香水は、本尊に供えられたり、供花の水として利用されるでしょう。
なお、「走りの行法」の後に和上から練行衆に数滴分けられた後、一般の弔問者も給われます。
今年もお水取りは開催されます!
2025年も、3月1日から東大寺のお水取りが執り行われます。
物価の上昇や流行り病などで、近年では不安を抱えている方も多くいらっしゃると思います。
東大寺は清涼な空気が流れる場所です。
空気が澄んだ場所では、不安が和らいだり、しんどい気持ちを大仏様に唱えることで心が軽くなったりするかもしれません。
また、お松明の火の粉には、健康祈願の一面もあります。
少しの気分転換も兼ねて、東大寺のお水取りを参拝してみてください。
参考:修二会┃東大寺